
相続土地国庫帰属制度の概要
相続土地国庫帰属制度とは、相続によって取得した土地を国庫に引き取ってもらうための制度です。この制度は、土地の管理に困難が生じた場合などに所有者が希望する場合に利用されます。制度を利用するにあたり、いくつかの要件と引き取る際にかかる費用(負担金)があります。
以下に、この制度の詳細について説明します。*各データは法務省HPより参照
引き取ることができない土地の要件
(1)申請をすることができないケース(却下事由)
以下の要件に当てはまる土地は、制度を利用するための申し込みが受理されない、つまり申し込んでもそのまま申請を拒否されてしまいます。
① 建物がある土地
② 担保権や使用収益権が設定されている土地
- 抵当権が設定されている土地
- 地上権が設定されている土地
- 賃借権が設定されている土地
- 使用収益権が設定されている土地
③ 他人の利用が予定されている土地
- 現に道路として利用されている土地
- 墓地内の土地
- 境内地
- 現在、水道用地、用悪水路、ため池として利用されている土地
④ 土壌汚染されている土地
法務省令で定める基準を超える特定有害物質により汚染されている土地
※ 工場跡地などは該当する可能性があります。
⑤ 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
(1)申請者が認識している土地の境界を明示
- 既存の境界標や地物(地形や建物)を使って境界を示せる場合、それらを図面に表示すること
- 既存のものがない場合は、申請者が新たに目印を設置し、それを図面に表示すること
※ 測量や境界確認書の提出は必須ではありません。
(2) 申請土地の境界に関して、隣地所有者と認識の相違がなく争いがないことを確認
※ 承認申請後、法務局が隣接土地の所有者に対して境界争いの有無を確認する連絡を行います。
(2) 承認を受けることができないケース(不承認事由)
以下の要件に当てはまる土地は、申し込みが受理されても国からの承認が得られない、つまり申請が却下されます。
⑥ 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
政令で定める崖の基準(勾配30度以上+高さ5メートル以上)に該当する崖がある土地
※ 崖があっても民家や施設等が近くになければ承認されることもあります。
⑦ 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
- 果樹園の樹木
- 民家、公道、線路などの付近に存在し、放置すると倒木の恐れがある枯れた樹木や枝の落下等による災害を防止するために定期的な伐採が必要な樹木
- 放置すると周辺の土地に侵入する恐れや森林の公益的機能の発揮に支障を生じる恐れがあるために定期的な伐採が必要な竹
- 過去に治山事業などで施工した工作物のうち、補修が必要なもの。
- 建物には該当しない廃屋
- 放置された車両など
※ 森林に木がある場合や、宅地に安全に問題のない土留めや柵がある場合などは、必ずしも土地の管理や処分を妨げるわけではありません
⑧ 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
- 産業廃棄物、屋根瓦などの建築資材(いわゆるガラ)、古い水道管、浄化槽、井戸、大きな石、 地下にある既存建物の基礎部分やコンクリート片、など
※除去の必要性の考え方について
土地にある物体が、その土地の通常の管理や処分に支障を与えない場合、その物体は除去する必要がないとみなされます。(例えば、広い土地の片隅に小さな配管がある場合などは、その土地の管理や処分に大きな影響を与えないため除去する必要はありません。)
⑨ 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
- 申請地に不法占拠者がいる場合
- 隣地から生活排水等が定期的に流入し続けており土地の使用に支障が生じている場合
- 別荘地管理組合から国庫帰属後に管理費用を請求されるなどのトラブルが発生する可能性が高い場合
- 立木を第三者に販売する契約を締結している場合など
⑩ その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
災害の危険により、土地周辺の人や財産に被害を生じさせるおそれを防止するため、措置が必要な土地
- 土砂の崩壊の危険のある土地について崩壊を防ぐために保護工事を行う必要がある場合
- 大きな陥没がある土地について人の落下を防ぐためにこれを埋め立てる必要がある場合
- 大量の水が漏出している土地について排水ポンプを設置して水を排出する必要がある場合
その他
- 土地に生息する動物により、土地や土地周辺の人、農産物、樹木に被害を生じさせる土地
- 適切な造林・間伐・保育が実施されておらず、国による整備が必要な森林
- 国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地
- 国庫に帰属したことに伴い、法令の規定に基づき承認申請者の金銭債務を国が承継する土地
相続土地国庫帰属制度の統計
令和6年11月14日現在の相続土地国庫帰属制度の運用状況に関する統計を以下に示します。
相続土地国庫帰属制度の運用状況

*法務省HP参照
却下・不承認件数(令和6年10月31日現在)
(1)却下件数
50件
(却下の理由)
- 10件:現に通路の用に供されている土地に該当した
- 1件:現に水道用地、用悪水路又はため池の用に供されている土地に該当した
- 7件:境界が明らかでない土地に該当した
- 5件:承認申請が申請の権限を有しない者の申請に該当した
- 31件:法第3条第1項及び施行規則第3条各号に定める添付書類の提出がなかった
(2)不承認件数
38件
(不承認の理由)
- 4件:崖(勾配が30度以上であり、かつ、高さが5メートル以上のもの)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するものに該当した
- 15件:土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地に該当した
- 2件:民法上の通行権利が現に妨げられている土地に該当した
- 1件:所有権に基づく使用又は収益が現に妨害されている土地に該当した
- 1件:災害の危険により、土地や土地周辺の人、財産に被害を生じさせるおそれを防止するための措置が必要な土地に該当した
- 15件:国による追加の整備が必要な森林に該当した
- 5件:国庫に帰属した後、国が管理に要する費用以外の金銭債務を法令の規定に基づき負担する土地に該当した
(3)取下げ件数(令和6年10月31日現在)
421件
取下げの原因の例
- 自治体や国の機関による土地の有効活用が決定した
- 隣接地所有者から土地の引き受けの申出があった
- 農業委員会の調整等により農地として活用される見込みとなった
- 審査の途中で却下、不承認相当であることが判明した
申請料と負担金
申請手数料の金額は、土地一筆当たり14,000円です。却下や取り下げの場合でも返金はありません。


*法務省HP参照
負担金額算定の特例
2つ以上の隣接する土地を合わせて1つの土地とみなし、負担金額を計算できます。この特例を使えば、複数の土地を1つの負担金で国に帰属させることができます。
・森林など、面積によって負担金が変わる土地
・別途、申請が必要

*法務省HP参照
※異なる種類の土地が隣接している場合は特例を利用できません
1つが宅地で、もう1つが森林である場合、それぞれ別々に負担金を計算する必要があり、特例を使うことはできません。 (例 宅地+宅地 〇、宅地+森林 ✖)
まとめ
引き取れない土地の要件を以下にまとめます。
① 建物がある土地
② 担保権や使用収益権が設定されている土地
③ 他人の利用が予定されている土地
④ 土壌汚染されている土地
⑤ 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地
⑥ 一定の勾配・高さの崖があって、管理に過分な費用・労力がかかる土地
⑦ 土地の管理・処分を阻害する有体物が地上にある土地
⑧ 土地の管理・処分のために、除去しなければいけない有体物が地下にある土地
⑨ 隣接する土地の所有者等との争訟によらなければ管理・処分ができない土地
⑩ その他、通常の管理・処分に当たって過分な費用・労力がかかる土地
相続土地国庫帰属制度を利用するにあたり、上記の10の要件と引き取ってもらう際に発生する負担金について事前に確認することが重要です。
この記事が、制度の理解を深める一助となれば幸いです。
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